随分以前に、ベテラン技術者から「どうすればもっと給料が上がるんでしょう?」と聞かれたことがあります。
その時は、すぐに答えが出ませんでした。
多分、固定費の削減など営業利益を増すための方法をお話ししたように記憶しています。
ベテラン技術者の日々の作業をどのように付加価値の拡大に結びつけるのか?
そのような視点が必要であったと今は思います。
義肢装具の製作では、患者の身体の型を石膏包帯で直接獲得します。
石膏包帯で採った型を雌型(陰性モデル)として、その中に石膏を注ぎ雄型(陽性モデル)を作ります。
雄型(以下:陽性モデル)を削ったり、石膏を部分的に盛るなどして、陽性モデル上で必要な設計修正を行います。
この陽性モデル上での設計には多くの時間と技術経験を要します。
ただ、この陽性モデルは義肢装具を作るための「金型」に過ぎませんので、患者が出来上がった陽性モデルを買うことは100%ありません。
患者一人一人の身体に合わせて陽性モデルを作るので、汎用性もありません。
一人ひとりの身体や医師からの処方指示にあわせて雄型の修正設計を行いますので、ベテラン技術者の技術や知識、経験が必要になります。
物理的に石膏が固まるのを待ち、削る盛るという作業を行いますので、当然時間もかかります。
このように多くの時間を技を投入した個々の陽性モデル自体は売り物ではありませんので、付加価値も何もありません。
保管をしておくにも場所も必要になりますので、一定の期間が経過すれば、粉々にして廃棄(再生利用)されます。
これでは儲かるはずもないし、お給料も上がりません。
患者や医療保険者は完成した義肢や装具に対してお金を払うのですから、石膏型にかける設計作業時間を減らし、型を使って製作する義肢装具の製作時間を増やせば、付加価値は増し、お給料も上がります。
付加価値を増す一つの方向です。
ただ、ベテラン技術者の陽性モデル製作自体をお金に変えられないか?
2通りの方法があります。
1)モデル製作作業を教育コンテンツに置き換え販売する。
2)モデルをデジタルデータ化し、データを蓄積し活用する。
2)はベテランの製作した多くの成果物を次世代のベンチマークとして継承することにもつながり、1)はその方法を伝えることにもつながります。
現在1)2)とも3次元スキャナ、CAD-CAMなどデジタル技術の発達により実現できるようになっています。
「技術をデジタル情報にすることでお給料は上がります。」
今は明確に答えることができます。