病院で診療を受けると、お医者さまからお薬の処方箋をいただきます。
処方箋を持って調剤薬局に伺いお薬を購入しその代金を支払います。
このように処方箋が必要なお薬のことを医療用医薬品と呼び、
その価格は国による公定価格によるものとされています。
❶ 医療用医薬品の公定価格決定には二つの方式が取られています。
1)類似薬効比較方式
効能の似た既存薬品の価格と比較して新薬の価格を定める方式です。
2)原価計算方式
製造原価や流通費用、研究開発費や営業利益を積み上げ、
さらに、想定患者数を考慮しその価格を定める方式です。
❷ 公定価格決定の手順は
① 企業が価格を算出し証拠書類と合わせ申請
② 申請に基づき、厚生労働省が厚生労働省が原案作成
両方式とも海外で流通している類似効能の既存薬価格と比較
③ 薬価算定組織(厚生労働省内の正式な組織)で討議決定上申
④ 中央社会保険医療協議会(中医協、厚生労働大臣の諮問機関)で了承
価格を事実上決めている③薬価算定組織の会議が非公開であることは議論の対象となっています。
❸ 改定のルール
① 特例拡大再算定
薬価算定後、申請・算定時に想定した年間販売額を超えた薬品の価格を引き下げるルールです。
話題になった抗がん剤「オプシーボ」の例では
当初想定患者数 470人 ( 皮膚ガンの一種の薬として発売されたため)
拡大患者数 50,000人 ( 肺がんに適用範囲が広がったため)
当初予測の100倍弱の患者数(販売個数)が想定され得ることとなり、
本制度の上限である50%の引き下げが適用されました。
50%の引き下げの要件としては年間販売額が1500億円を超えることが挙げられています。
1500億円以下は25%の引き下げとされており、販売額想定の根拠が不明確との論議もあります。
② 改定機会を2年に1回から、年4回に見直す
現在は2年に1度、全ての医薬品の市場価格を調査し公定価格と実勢価格との
差を調整し改定しています。
今後、薬価算定後に対象者が拡大し販売額が増大するケースでは
年に4回見直す機会を設ける方針が示されています。
年4回の見直しは、公定価格を前提としてきた企業の経営においては
かなり適応するのが大変な環境変化に思えます。
③ 費用対効果の導入
2018年度よりQALYを用い1QALYを伸ばすためにコストを薬だけでなく、
様々な医療行為を同じ基準で評価し、相対的に費用対効果が低いものの価格を引き下げるとするものです。
QALYとは、Quality-adjusted life year 生存年を生活の質で調整した値です。
生存年はどのくらい生きたか、その量を示すものです。
生活の質は、どのように生きたか、その質を示すものです。
生活の質については、完全に健康な状態での生活の質を1、
疾病などにより質が低下した状態を0.5というように測定し算出します。
1QALYは健康な状態での生活の質での1年の生存を示します。 1×1=1
質が0.5まで低下していれば、同じように1年を生きても0.5QALYとなり、
その状態では2年生存して1QALYと算定されます。
QALYを用いることで、その治療や投薬によりどのような状態でどのくらい生きたのか、
そのための費用がいくらかかり、様々な医療行為の中でいずれに対する公的費用投入が
対象者はもとより社会経済的に好ましいのかを比較できます。
❹ ジェネリック薬品の使用促進
ジェネリック薬品とは後発薬品を指し、新薬との対比で用いられる言葉です。
薬の開発には多くの費用と期間が必要です。
そのようにして開発された薬は新薬としての特許期間中は独占的販売が保証されます。
特許期間は出願後20年ですが、治験などに相当の年数を要するために
プラス5年間の特別の延長制度が認められています。
それにより新薬の開発への投資が促されています。
特許期間満了後に他のメーカーが開発する薬がジェネリック薬品です。
ジェネリッック薬品は、新薬と全く同じ薬品ではありません。
効能効果は同じですが、形や添加剤などは異なります。
新薬と代替可能であることについて製造元が試験確認し
厚生労働省に申請し、その承認を得て販売しています。
ジェネリック薬品の単価は2016年度改定で新薬の50%とされています。
ジェネリック薬品の使用割合は2015年9月時点統計報告ではで56%ですが、
政府目標は2020年9月時点で80%を目指すとしています。
その場合、約1兆3000億円の医療費削減効果があり、
2015年度総額41.5兆円に対して約3%の削減となります。
医療の単価を抑制するのとともに、
その費用対効果から公的医療の対象とする範囲を制限し
需要サイドの高齢者の著しい増加と供給サイドの医療の高付加価値化による
医療費の増大を抑制する様々な試みがこれからもされていくことが予測されます。
QALYの導入により、その費用対効果を証明することが可能となりますので、
医療施術や薬品を補完するものとして予防や装具などの市場機会が拡がります。
2017年5月25日(木)毎日新聞より