2018年の医療保険と介護保険にかかる報酬改定が話題になっています。
この改定には診断士としても社会保険に関わるものとしても高い関心を持っています。
今回、4月23日付の毎日新聞の特集記事をもとにまとめてみました。
【 改定の目的 】
1)高齢者や高齢化している障害者に医療と介護、障害者福祉とで切れ目ないサービスを提供する。
2)医療と介護、障害者福祉にかかる給付の効率化により社会の負担(コスト)を抑制する。
障害者総合支援法による障害者福祉給付は改定の対象ではありませんが、
障害者総合支援法の改正により新設された「共生型サービス」は介護保険サービスと関連づけられています。
疾病を患った高齢者だけでなく、高齢化している障害者へのサービスの充実もその目的として
合わせて構想されているものと考えることができます。
【 改定の目標 】
1) 在宅生活を支える医療と介護の連携体制を強化整備する。
高齢者が自宅や介護施設など住み慣れた場所で人生の最期まで暮らせる環境を整える。
このように整備された環境を「地域包括ケアシステム」と呼んでいます。
2) 住み慣れた場所での「みとり」率の向上
「住み慣れた場所」に対する場所をここでは「病院」として考えます。
現在、自宅生活者の大半は人生の最期を病院で迎えています。
医師が配置されている介護施設入所者でも病院で最期を迎える方がいらっしゃるとのことです。
自宅を訪問し、みとりを行う医療機関の割合は5%に留まっています。
特に夜間の対応が問題とされています。
3) 退院後の自宅での継続リハビリテーションを受けることができる
地域包括ケアシステムの中で、高齢者は状態に応じて滑らかに自宅と病院とを行き来するとされています。
そこでは生活の変化が起きますが、その変化をどれだけ滑らかにできるのかが課題とされています。
入院後の退院期間は短くなる傾向にありますが、
医療機関で受けたリハビリテーションの効果を維持するためには
退院後も効果のある科学的なリハビリテーションが
自宅で継続して受けることができる体制整備が不可欠です。
4) 医療機関とケアマネージャーとの情報共有を強化する。
自宅での生活では介護保険によるサービスを計画し管理するケアマネジャーがその軸となります。
その対象となる高齢者は入退院を繰り返しますので、
ケアマネージャーと医療機関との情報共有が良好であることは高齢者のメリットとなります。
【 かかりつけ医の方の役割 】
高齢者の自宅での生活の軸となるのがケアマネージャーとすると、
高齢者の医療的ケアの軸となるのが地域のお医者さまである「かかりつけ医」とされています。
かかりつけ医の方がいらっしゃることで、
高齢者は必要な医療的ケアを適切な医療機関で受けることができます。
例えば、高度な医療的ケアが必要な場合には適宜その機能を備える大病院を紹介して頂けます。
18年の改定でもかかりつけ医の方を増やすための施策を織り込むことが検討されています。
【 情報通信技術(ICT)の活用 】
医療や介護は人的サービスによる部分が大きいので、その効率化には限界があるとされていました。
ただ昨今、ICTは大きく進歩普及し低コスト化しています。
ICTの活用により医療の効率化が期待されています。
インターネットによる医療機関と自宅を結んだ医療職による患者指導や医療機関同士の遠隔医療の推進
診断や治療における人工知能活用による医療職の支援なども検討されています。
ICTの分野は民間事業者のサービスや製品への機能付加が公的制度に常に先行します。
地域包括ケア体制の目的や目標を軸として、
民間事業者が高齢者や医療介護関係者などステークホルダーの利便性を増し、
その負担を減じるようなサービスや製品開発を率先して進めることで
これからのありたい地域づくりに資するだけでなく、大きなビジネスチャンスも生まれると考えています。
【 介護保険サービスの中重度者重視の強化 】
ここでいう中重度者とは要介護度3以上の方を指します。
要介護度については以下に一覧します。
要介護1 | 見だしなみや部屋の掃除など、身の回りのことに見守りや手助けなどを必要とする。 立ち上がりや片足立ちなどの動作に何らかの支えを必要とする。 歩いたり両足立っている時に何らかの支えを必要とすることがある。 トイレや食事はほとんど自分ひとりでできる。 問題行動や理解低下がみられることがある。(認知症) |
要介護2 | 見だしなみや部屋の掃除など、身の回りのことの全般に見守りや手助けなどを必要とする。 立ち上がりや片足立ちなどの動作に何らかの支えを必要とする。 歩いたり両足で立っているなど、移動動作に何らかの支えを必要とする。 トイレや食事に見守りや手助けなどを必要とすることがある。 問題行動や理解低下がみられることがある。(認知症) |
要介護3 | 見だしなみや居室の掃除など、身の回りのことが自分ひとりでできない。 立ち上がりや片足立ちなど、複雑な動作が自分ではできない。 歩いたり両足で立っていることなど、移動の動作が自分ひとりではできないことがある。 トイレが自分ひとりでできない。 いくつかの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。(認知症) |
要介護4 | 見だしなみや部屋の掃除など、身の回りのことがほとんどできない。 立ち上がりや片足立ちなど、複雑な動作がほとんどできない。 歩いたり両足で立っていることなど、移動の動作が自分ひとりではできない。 トイレがほとんどできない。 多くの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。(認知症) |
要介護5 | 見だしなみや部屋の掃除など、身の回りのことがほとんどできない。 立ち上がりや片足立ちなど、複雑な動作がほとんどできない。 歩いたり両足で立っていることなど、移動の動作がほとんどできない。 トイレや食事がほとんどできない。 多くの問題行動や全般的な理解の低下がみられることがある。(認知症) |
要支援1 | 部屋の掃除や身の回りのことの一部に見守りや手助けなどを必要とする。 立ち上がりや片足立ちなどの動作に何らかの支えを必要とすることがある。 トイレや食事はほとんど自分ひとりでできる。 |
要支援2 | 見だしなみや部屋の掃除など、身の回りのことに見守りや手助けなどを必要とする。 立ち上がりや片足立ちなどの 動作に何らかの支えを必要とする。 歩いたり両足で立っている時に何らかの支えを必要とすることがある。 トイレや食事はほとんど自分ひとりでできる。 |
要支援と要介護の違い | 要支援となるのは、介護サービスの利用により心身の状態が改善する可能性が高いと判断される方です。 不活発な生活によって筋力低下や低栄養などに陥っている方(廃用症候群と呼ばれます)等が対象とされています。 ただし、上記なような方でも認知症が進行していたり、病気や怪我で心身の状態が不安定な方は要介護となります。 |
(静岡市の例を引用しております。)
要介護度2の方までは
軽度の認知症があり、自宅での生活の様々な場面で介助者による見守りや手助けが必要な方。
要介護3の方では
認知症が進み自宅で日常生活を送る上で必要な動作が一人ではできなくなっています。
確かに要介護3以上の方が自宅で安全で尊厳ある日常生活を送り、
同時に介護をする家族の負担を減らし、家族が職業人として地域や世の中で広くその能力を発揮し活躍する。
その両立には充実した介護サービスが必要です。
加齢により多くの方の介護度が増すことが考えられますので、
今後、中重度者として介護サービスを必要とする方の人数は増えることが想定されます。
一方、軽度とされる要介護2までの方は、
自宅で生活する上では掃除や調理に見守りが手助けが必要ですので、
ヘルパーの方による生活援助サービスを利用する必要があり、実際に多くの方がサービスを利用しています。
今後、中重度者にサービスを重点化しながら、介護にかかかる社会保障費の過剰な増大を抑制するために
生活援助サービスを提供する事業者様への報酬の引き下げが18年改定では行われると見られています。
また、将来的には公的介護保険の対象から外れるとの見方もあります。
ただ、公的サービスの対象から外れても、サービスを必要とする方はいらっしいます。
地域の知恵や民間事業者の創意と工夫が、地域包括ケアシステムの土台としてその重要性を増します。
【 ロボットの介護現場での普及 】
これは少しピンとこないところ。
病院のように環境がコントロールされている場面ではロボットはその有効性が高いものと考えますが、
介護の現場で実際にその利活用が普及するものか、どうも想像し難く思えます。
【 社会保障費の抑制 】
医療も介護も保険制度をとっており
給付費の一定割合は私たちが支払う保険料により賄われています。
ただし、その一定割合は国が義務的に負担したり、可能な範囲で補助することとされています。
政府は社会保障費の自然増を2016年〜2018年まで
各年度5000億円に抑えるという財政規律を明らかにしています。
実際に2016年度は6700億年、2017年度は6400億円と各年度の予算案では自然増でしたが、
16年度は診療報酬のマイナス改定、17年度は高齢者医療における中高所得者への優遇策を見直すなどして
各年度とも5000億円に抑制しています。
18年度についても当初予算案に対して一定程度の抑制が行われるだろうとされています。
いずれにせよ、財源的制約がある中で確実に高齢者は増えていきます。
私たちも確実に高齢者になります。
高齢者が生活者として地域で尊厳ある人生を送り終えることができるよう
高齢者が必要なサービスを利活用するためにはやはり民間事業者の創意と工夫、
公民連携が不可欠ですし、多くの民間事業者にとって確実な事業機会であると考えることができます。